和菓子小径こみち
雨に煙る木立の風景
雨に煙る木立の眺め

恵の雨が奏でる調べ ― 工房を満たす静かな朝

雨の多いこの季節。静かに降る雨に包まれながら、今日も落雁の生地と向き合っています。

古くから、和菓子づくりにおいて「湿度」は欠かせない要素です。とりわけ落雁(らくがん)は、乾燥しすぎても、湿りすぎても仕上がりに影響する繊細なお菓子。

雨の日のやわらかな空気は、生地をしっとりまとめ、口あたりのよい落雁を生み出す「恵の雨」ともなります。とはいえ、ただ湿っていればよいというものではありません。

工房では一日の温度や湿度の変化を感じ取り、生地のまとまり具合や粉の香り、指先に伝わる微かな湿り気から「今がちょうどよい」と見極めていきます。

数値では測れないこの感覚こそ、落雁づくりの要点といえるでしょう。

雨の日に味わう、しっとりとした和のしずく

雨の日は、自然と心が静まり、甘いものがより深く沁みるように感じます。そんな日の和菓子には、落雁のようにやさしい口どけのものがよく合います。

さらりと溶ける砂糖の甘さと、ほのかな米の香り、控えめながら奥行きのある香ばしさ。温かいお茶とともにいただけば、外の雨の調べも一つの豊かな時間に変わります。

雨の日の贈り物としても、落雁はおすすめです。

雨に濡れた石畳をそっと歩き、包みを開けると、しっとりとした落雁が顔を出す――。

控えめな甘さとほろりとした口どけは、雨の静かな時間に寄り添い、和菓子ならではのやさしさを伝えてくれます。

そんなひとときを贈ることができるのも、落雁の魅力の一つです。

雨の恵み ― 昔からの向き合い方

日本人は古くから、雨を「恵み」として受け入れてきました。

田畑を潤し、茶葉を育て、四季折々の実りをもたらす雨。和菓子の素材である米や豆、砂糖もまた、その恩恵の中で育ちます。

だからこそ、私にとって雨は単なる天候ではなく、自然とともに生きる象徴なのです。

「雨の日の湿り気は、素材の声をよく聞かせてくれる」古くからの職人の言葉が、私の手仕事の指針となっています。

先人の知恵を受け継ぎ、雨の日の空気や湿度を感じながら、生地の状態を丁寧に確かめる。その一つひとつの手の感覚が、落雁の口どけや形を決めるのです。

季節の移ろいとともに素材と向き合い、自然の恵みを活かす――そんな心で、今日も静かに落雁を仕込んでいます。

雨もまた、菓子を育む恵み

雨を嫌うのではなく、自然の一部として受け入れる心。それが、和菓子づくりに息づく「調和」の考え方です。

恵の雨がしっとりと空気を包み、やがて晴れ間を待つように落雁が乾いていく。その移ろいの中に、和菓子の美しさと、職人の知恵が宿っています。

わがし京増の落雁は、そんな恵みの中で生まれています。今日もまた、雨の音を感じながら、ひとつひとつの形に心を込めて。