和菓子小径こみち
一本の枝に紅・白・淡彩の梅を表した和菓子の落雁「彩枝図」
落雁 彩枝図(さいしず)

梅ひそみ、春をこがれる瞬

冬の気配の奥に、兆しほのめく

冷たい空気が澄みわたり、冬の輪郭がはっきりとしてくる頃。

雪の気配はまだ遠く、季節は冬の盛りにありながら、枝先に目を凝らせば、梅の蕾はすでに固く身を結び、静かに春の支度を始めています。

すぐには咲かず、花の姿も見せないまま、香りだけを先に宿す梅。

凍える季節の只中で、「少し先」を予感させるその在り方こそ、日本の季節感の奥行きであり、梅の落雁は、その慎ましやかな兆しをかたちとして写し取った菓子です。

梅にひそむ、日本のこころ

梅は、百花に先がけて咲く花。

寒さに耐えながら、声高に主張することなく香りを放つその姿に、日本文化が大切にしてきた「忍び」「静けさ」「内なる強さ」が、重なります。

目に見える華やかさよりも、時を待つこと。その姿勢は、和歌や茶の湯、そして和菓子の世界にも、静かに息づいてきました。

紅・白・淡彩。蕾はまだ語らない

紅の梅は、よろこびや寿ぎを映し、枝先にあたたかな気配を灯します。白の梅は、清らかさと始まりをたたえ、静かな祈りを宿します。

淡く彩られた梅は、満ちきる前のゆらぎ。そして、花ひらかぬ蕾は、完成ではなく「これから」を抱えたまま、時を待ちます。

咲く花と、待つ花。そのすべてが重なり合うとき、梅は一瞬の華を超え、移ろう季節そのものを、静かに映しはじめるのです。

枝先に描く、時の彩――落雁 彩枝図(さいしず)

太く、のびやかな一本の枝。その上に、紅・白・淡彩の梅が、ひとときの景を結ぶように咲きわたります。

力を秘めた枝ぶりと、静かに色づく花々。その対比は、冬から春へと移ろう季の気配を、やさしく映し出します。

一輪ごとの色差は控えめながら、重なり合うことで奥行きを生み、眺めるほどに、意匠の趣が深まっていきます。

咲く梅を、ひと枝の景として。目で味わい、心で愉しむ――そんな和菓子に仕上げました。

まだ名もない春を待って

寒さの只中にある日々、梅の落雁は、季節を先取りするための菓子ではありません。

冬の時間の奥に、かすかに差し込む光。その存在に、ふと気づくための、ひとときのかたちです。

歩み寄る春を急かすことなく、冬と春のあわいに生まれる余韻を、一服のお茶とともに、静かにお楽しみください。