カテゴリ: 文化・伝統
食べる文化 ― 和菓子に見る、溶けゆく日本の美学
11月3日は「文化の日」。
「自由と平和を愛し、文化をすすめる日」として知られていますが、その背景には日本の近代化とともに歩んできた長い歴史があります。
その歩みをたどると、この日に込められた“文化”の意味が、静かに、そして深く浮かび上がります。
天長節から明治節へ ― 明治の文化を寿ぐ日
明治時代の11月3日は、明治天皇の誕生日として「天長節(てんちょうせつ)」と呼ばれていました。
この名称は、中国の思想家・老子の「天長地久」に由来し、天の長久を願う意味が込められています。
明治維新を経て日本が近代国家として歩み始めた時代、祝祭日は皇室や神道の考え方に沿って定められていました。
天長節は、国の歩みを寿ぐ大切な日として位置づけられていました。
大正時代に入ると、天長節は当時の天皇の誕生日(8月31日)に移り、11月3日は「明治節」として、明治天皇を偲ぶ日として受け継がれています。
憲法公布と文化の日 ― 「自由と平和を愛し、文化をすすめる日」へ
第二次世界大戦後の1946年11月3日、この日に日本国憲法が公布されました。
戦後の新しい日本が「自由と平和」を掲げて再出発した象徴的な日です。
当初は、この日を「憲法記念日」とする案もありましたが、連合国軍総司令部(GHQ)は、天皇の誕生日と憲法を結びつけることに慎重な姿勢を見せました。
そのため、憲法が施行された翌年の5月3日が「憲法記念日」となり、11月3日は新たに「文化の日」として残されたのです。
1948年の祝日法で正式に制定され、「自由と平和を愛し、文化をすすめる日」と定められました。
この「文化」は、芸術や学問にとどまらず、人の心や暮らしの中にある“美と調和”の精神を意味しています。
また、毎年この日には文化勲章の授与式が行われ、科学・芸術・文学などの分野で顕著な功績をあげた人々が顕彰されます。
秋の澄んだ空の下、日本文化を称えるにふさわしい一日です。
そして、11月3日は「晴れの特異日」としても知られ、穏やかな秋空のもと、多くの文化行事が全国各地で催されています。
和菓子に息づく“文化”
和菓子は、古くから茶道や年中行事と深く結びついてきました。
茶席で客人をもてなす菓子には、礼節の中に、四季の移ろいを映す繊細な感性が息づいています。
中でも落雁は、茶道で重んじられる「わび・さび」の精神に通じる菓子。
淡い色合いと控えめな甘さ、そして静かな佇まいの中に、心を尽くすもてなしの美が宿ります。
また、神仏への供物としての役割も担い、祈りと感謝の心をかたちにした存在でもあります。
砂糖と粉というシンプルな素材から生まれる落雁は、まるで小さな工芸品のよう。
日本人の美意識と精神文化が凝縮された菓子といえるでしょう。
文化を味わう一口
落雁は、まさに“食べる文化財”。職人の手仕事や意匠のひとつひとつに、長い年月をかけて受け継がれてきた技と祈りが込められています。
口に含むと、ほろりとほどけるやわらかな甘さ。その儚さの中に、移ろいゆく季節や無常を美とする日本人の感性が映ります。
文化の日には、ただ味わうだけでなく、その形や香りに込められた思いや背景に心を寄せてみてはいかがでしょう。
ひと口の中に、日本の伝統と平和を願う心、そして静かな和の美がそっと溶け込んでいます。