カテゴリ: 文化・伝統
渋に染まる、澄みわたる朱のいのち
毎月1日は、小豆に祈りを寄せる日。
清らかな赤が時のはじまりを照らし、古くから人々はその色に、厄を払い福を呼ぶ願いを重ねてきました。
わがし京増の菓づくりもまた、この小豆とともにあります。
火と水が息を合わせる瞬間、ふくよかな香りが立ちのぼり、渋がゆっくりと澄んでいく。
その一滴一滴が、菓子に命を灯す大切な糧となります。
小豆が秘める滋味と力をすくい上げ、形へ、味へ、祈りへと結んでいく――。
わがし京増の仕事は、今もなお小豆との静かな対話から始まります。
一粒との対話が紡ぐ味
わがし京増では、菓づくりの基盤となる餡に北海道産の小豆を用いています。
皮の張り、煮含めたときの風味、豆が持つ素直な香り――どれも和菓子の味わいを決める重要な要素です。
丁寧に炊き上げた餡から立つ香りは、小豆そのものの誠実さを静かに物語ります。
渋が澄むとき、赤が生まれる
小豆を炊くとき、最初に立つ濃い煮汁――これを「渋」と呼びます。
皮に含まれるアントシアニンやタンニンなどのポリフェノールが溶け出し、深く澄んだ紅色を生み出します。
赤飯のやさしい薄紅も、この渋の力によるものです。昔の人はこの自然の色を尊び、日々の食卓や祝いの席に活かしてきました。
小豆が秘める成分と、おだやかな働き
小豆に宿るポリフェノールは抗酸化作用を持ち、身体の巡りを整える力があるとされます。
渋に含まれる成分には、余分な水分を調える収れん作用があるともいわれ、古くは薬用としても重んじられてきました。
自然が授けた赤い色には、目には見えないおだやかな力が息づいています。
豆の個性を見極め、和菓子の味を結ぶ
小豆は品種によって「皮の張り」「吸水の速度」「澱粉の質」が異なり、餡の仕上がりを左右します。
皮がしっかりした豆は煮崩れしにくく、澱粉粒が細かい品種はなめらかな口どけを生みます。
渋の色調も豆の特性によって変わり、和菓子の風味や佇まいを決める重要な要素となります。
豆の声を聴き、その日の状態に合わせて火加減や漉し方を選ぶ――その積み重ねが、わがし京増の味を支えています。
小槌に宿る、願いのかたち
小豆の日に合わせて炊き上げた赤飯を、わがし京増では「打出の小槌」にかたどりました。
小槌は古くより“願いを叶える・福を招く”象徴とされ、祝いの席や節目の日に添えられてきた吉祥の形です。
赤飯の淡い紅色に小槌の形を重ねることで、手のひらの上に福が芽吹く瞬間を閉じ込めたかのような、一皿が生まれます。
小豆の赤がもつ魔除けの力と、小槌が象徴する福徳の願い――二つの吉祥が静かに寄り添い、心の中で祈りを感じるひとときとなります。
小豆の日に、赤と吉祥の香りをひそめて
小豆を通して感じる季節の節目や、日本古来の願いを静かに伝えたい気持ちは、日々の菓づくりの中で息づいています。
小槌型の赤飯もまた、小豆の持つ力と吉祥の心が重なるひとつの表現です。
小豆の日には、赤い実が宿す意味と美しさを思い起こしていただければ幸いです。