カテゴリ: 文化・伝統
静かに満ちる福風 ― 小さな宝船に願いをこめて
七福神を乗せ、福を運ぶ船として古くから親しまれてきた「宝船」。
わがし京増の工房でも、福風が静かに満ちるような願いをこめて、小さな宝船の落雁をおつくりしています。
慶びの日にも、日々のささやかな幸を願う折にも、穏やかに寄り添う一艘です。
宝船の由来 ― 福を運ぶ船
宝船は、七福神が乗り込み、財宝や福徳を人々に運ぶといわれる吉祥の象徴です。
その船には、打出の小槌・宝珠・巻物など、さまざまな宝が積まれ、「豊かさ」「長寿」「商売繁盛」などの願いが込められています。
初夢に見ると縁起がよい ― 古くから伝わる言い伝え
「一富士二鷹三茄子」の初夢のあとに、「宝船を見るとさらによい」とも伝えられています。
正月の夜、宝船の絵に願いごとを書き、枕の下に敷いて眠ると、福が訪れると信じられてきました。
そうした風習にちなみ、宝船は新年だけでなく、節目の日にも福を招く文様として親しまれています。
五つの宝を和して ― 「五福和(ごふくなごみ)」
「五福和」は、宝船に積まれた宝を象った、福を招く縁起菓です。
それぞれの意匠には、古くから伝わる祈りが込められています。
珊瑚:長寿と魔除けを意味し、紅珊瑚は吉祥の色として祝福の象徴です。
隠れ笠:災厄を避けると伝わる縁起具。七福神ゆかりの道具の一つで、旅の安全や無事を願います。
松:常盤に緑を保ち、永遠の繁栄と長寿の象徴です。
小槌:振れば願いがかなう「打ち出の小槌」。財運招福、商売繁盛のしるしです。
俵:五穀を満たす実りの姿。五穀豊穣、生活の安寧をもたらす富の象徴です。
これら五つの宝を和して調え、新春を寿ぎ、来たる一年の幸を願う心を込めて仕立てました。
松の栄えを添えて ― 「松栄宝舟(しょうえいほうしゅう)」
「松栄宝舟」は、松の栄えを添え、福を運ぶ宝の舟をかたどった落雁です。
帆に「宝」の字を掲げ、常盤の松を添えた姿は、永遠の繁栄と幸福をあらわします。
福風を受けて穏やかに進む舟の姿に、「栄え」と「幸」を願う心を映しました。
「松栄宝舟」は、幸多き一年のはじまりを寿ぐ、めでたき縁起菓です。
落雁に映す形と彩りの美しさ
落雁ならではのやわらかな白に、素材のきめをそのまま映し、宝船の穏やかな姿をかたちにしました。
木型の線が淡く浮かぶたび、福が静かに満ちていくような気配を感じます。
一艘ずつに込める想い
工房では、一艘ずつ丁寧に木型に打ち、生地の締まり具合や色の調和を見ながら仕上げています。
福をのせるように、やさしく指先で押し固める時間の中に、菓子づくりの原点があると感じています。
どんなときも、贈る方も受け取る方も、心が晴れるような一品でありたい――
その想いをのせて、今日も小さな宝船を送り出しています。