和菓子小径こみち
自然岩の上に建つ笠森観音の観音堂を下から見上げた写真
笠森観音の観音堂 ― 山に抱かれた祈り

山の日に訪ねる、山の祈りと緑の記憶

山の日とは?8月11日に制定された理由

山の日は、2016年(平成28年)から始まった国民の祝日です。「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」という趣旨で制定されました。

日本は国土のおよそ7割が山地で構成されており、古くから山は水を育み、木々を育て、人々の暮らしを支える大切な存在でした。その恵みに感謝し、自然との関わりを見つめ直す日として、8月11日が山の日となっています。

山に受け継がれる祈りと山岳信仰

日本では古くから、山そのものを神聖な場所として敬う信仰が受け継がれてきました。山は水を生み、木々を育て、暮らしを支える恵みの源であり、人の力が及ばない自然への畏敬の対象でもありました。

各地で祀られてきた「山の神」は、農業や林業、狩猟を見守る神として知られています。春には山の神が里へ下りて田の神となり、秋には再び山へ戻るという伝承も各地に残されています。

そのため、霊峰と呼ばれる山だけではなく、里山や鎮守の森にも神聖な意味が込められ、神社や寺院が山腹や高台に建立される例も少なくありません。

笠森観音の観音堂から望む、豊かな緑に包まれた境内
夏色に染まる境内

山の神が巡る日、山を敬う古くからの風習

山の神を信仰する地域では、「山の神の日」と呼ばれる禁足日が設けられていました。代表的な日として知られるのが、2月9日と12月9日です。

地域によって伝承は異なりますが、この日は山の神が山を巡る日、あるいは神が里と山を行き来する日と考えられ、木を伐ることや狩猟、山仕事を控える風習が受け継がれてきました。

こうした禁足日は信仰だけでなく、山を休ませる日、安全に山仕事を続けるための知恵としての意味もあったと考えられています。自然を利用するだけでなく、一定の節度をもって向き合う姿勢が、日本の山岳信仰には息づいています。

笠森観音の観音堂裏に立つ御神木と観音堂
緑の先に受け継がれる祈り

山の祈りを今に伝える笠森観音

千葉県長南町にある笠森観音(笠森寺)は、延暦3年(784年)に伝教大師最澄が開いたと伝えられる古刹です。その後、後一条天皇の勅願により再興され、坂東三十三観音霊場第三十一番札所として多くの参拝者を迎えてきました。

現在の観音堂は、後花園天皇の時代に建立されたとされる国指定重要文化財です。巨大な自然岩の上に六十一本の柱を組み上げる「四方懸造(しほうかけづくり)」は、日本でも唯一の建築様式として知られています。

人工的に造成した土地ではなく、自然の地形を生かして建てられた姿は、山を敬い、その姿を受け入れる日本の信仰を今も伝えています。周囲に広がる自然林も国の天然記念物「笠森寺自然林」として保護されています。

山の記憶を映す、季節の彩り

夏の山は、一色の緑ではありません。木々の種類や陽の当たり方によって幾重にも色が重なり、岩肌や木漏れ日、水辺の景色が自然の造形をつくり出しています。

こうした自然の表情は、昔から日本人の美意識やものづくりにも大きな影響を与えてきました。

落雁もまた、四季や自然を映す和菓子の一つです。山々が織りなす緑の濃淡や、自然がつくり出す繊細な美しさを、形や色に込めながら、一つひとつの落雁へと表現していきたいものです。