カテゴリ: 季節・行事
笹に揺れる、天へ還る願い
温風至、夏の入口にて
七月上旬は二十四節気の「小暑(しょうしょ)」を迎え、七十二候では初候の「温風至(あつかぜいたる)」の頃となります。
「温風至」は、あたたかい風が届くという意味を持ち、南からの風や熱気を含んだ空気が流れ込む頃を表しています。
梅雨が終わりきらない空に、夏の気配が混ざりはじめる時期です。湿りと熱が同じ場所に重なり、空気の層に厚みが生まれます。
光はまだ強さを増しきらず、影との境目がやわらかく揺れる中で、季節だけが一歩先へ進んでいくような時間です。
星に結ばれた願いのはじまり
七夕は、中国の「乞巧奠(きっこうでん)」と日本の棚機津女(たなばたつめ)の伝承が重なり合い、現在へ受け継がれてきた行事です。
やがて織姫と彦星の物語が加わり、技芸の上達や願いを星へ託す風習として広く親しまれるようになりました。
竹や笹に短冊を飾る習慣は江戸時代に庶民のあいだへ広まり、学業成就や家内安全など、それぞれの願いが短冊に記されるようになりました。
今では世代を問わず親しまれ、日本の夏を彩る年中行事のひとつとして受け継がれています。
笹に結ばれた言葉のゆくえ
笹は一年を通して青さを保ち、生命力や清らかさの象徴として扱われてきました。
そこに結ばれる短冊は、願いを言葉として形にする行為でもあります。
七夕の翌日には、飾りを川へ流したり、焚き上げて天へ還す風習が各地に残されています。
こうして飾りは役目を終え、願いとともに空へ、そして自然へと還っていきます。
星の川に隔てられた想い
七夕の夜空には、こと座のベガ(織姫星)と、わし座のアルタイル(彦星)が輝きます。
中国に伝わる織姫と牽牛の神話が夜空の星と結び付けられ、ベガは織姫星、アルタイルは彦星として親しまれるようになりました。
天の川をはさんで向かい合う二つの星は、夏の大三角を形づくる存在でもあります。旧暦の七夕にあたる現在の七月下旬頃には、空気が澄んだ地域で天の川を眺められることもあります。
夜空を見上げながら物語に思いを重ねることも、七夕ならではの楽しみのひとつです。
遠く離れた二つの星は、人々の願いとともに、今も夏の夜空を照らし続けています。
青葉重に残る七夕の余韻
竹に重なる笹の葉を意匠とした「青葉重」は、夏へ向かう頃に深まる緑の彩りを表しています。
まっすぐ伸びる竹と、やわらかく重なる笹の葉が織りなす姿は、七夕に飾られる笹を思わせる風景にも重なります。
願いを結ぶ七夕の情景は、和菓子の意匠にも息づき、一菓の中に季節の趣を映し出しています。
青葉重は、七夕という節句に寄り添いながら、日本の四季と和菓子の美しさを今に伝えています。