和菓子小径こみち
熟した苺の実
紅、実りて結ぶ

彩り満ちて、実りのかたち

うつろいの中で、実りゆく

春の盛りを過ぎ、光にわずかな強さが差しはじめる頃。やわらかな風の中に、初夏へ向かう気配が静かに混じりはじめます。

手もとの小さな景色では、白い花が次々と結びを迎え、やがて瑞々しく色づく苺の実へと移ろっていきます。限られた土の中で育つその一粒一粒に、季の深まりが映し出されています。

このうつろいを受けとめ、落雁としてあらわしました。自然の恵みの表情を、そのままにとどめています。

ひと手の積み重ねが、実りを結ぶ

苺は、株の充実によって味わいが大きく左右されます。若いうちは花や実を間引き、養分が分散しないよう整えることが欠かせません。

一見すると惜しく思える手入れですが、この積み重ねによって、やがて輪郭のはっきりとした実りへと育っていきます。

また、小さな実ほど早く色づくものの、酸味が立ちやすく、甘みとの調和が整う前に熟してしまうこともあります。

そのため芽かきを行い、数を抑えながら一粒に力を集めていきます。

ときに増える力を抑え、実りへと導くこともまた大切な手入れのひとつです。

余白を残し、かたちを結ぶ

余分を整え、残すものを見極めること。それは栽培においても、菓子を仕立てるうえでも変わらぬ所作です。

多くを残すのではなく、最もよい状態へ導くために選び取る。その積み重ねによって、かたちは自然と整っていきます。

手を加えすぎず、しかし委ねすぎず、静かに整えていくことで、味わいと印象はより澄んだものへと導かれていきます。

その姿勢は、目に見えるかたちだけでなく、口に広がる余韻にもやわらかく表れていきます。

苺をかたどった落雁『紅苺雁』
落雁「紅苺雁」

その色は、ひとつに定まるものではなく、溶け合いながらやわらかな奥行きを生み出します。

熟しゆく過程に見られる色の揺らぎを重ね、自然の中にある紅の気配を写し取っています。

細やかな凹凸や色合いにより、苺の質感をあらわしました。粒の連なりやわずかな起伏を意識し、ひと目でその時のやさしい気配を感じていただけます。

ひとときに、季の彩りを

白い花がやがて紅い実へと移ろうように、日々の積み重ねは静かに実りへと結ばれていきます。

移ろう季節の中で、ほんのわずかな時間だけ現れる色とかたち。その儚さを手元にとどめるように仕立てた一品です。

お茶の席や贈りものに。やわらかな甘みとともに、季節の余韻をお楽しみいただけましたら幸いです。